完璧な転職エージェントなど存在しない。完璧な暗闇が存在しないようにね。

perfecttenshoku

「完璧な転職エージェントなどといったものは存在しない。完璧な暗闇が存在しないようにね。」

僕が第二新卒だった頃、銀座のとあるバーで出会った男が僕に向かってそう言った。

・・僕がその本当の意味を理解できたのは3回目の転職を終えてからだったが、少なくともある種の慰めとして取ることは可能であった。

完璧な転職エージェントなど存在しない、と。

 

転職エージェントから紹介された求人を見ると、全く僕の志向と違うものばかりだった。やれやれ。

僕は頭を振った。まずは次の転職エージェントを考えよう。

この転職エージェントとの縁を切るのはそれからでも遅くはない。

そのときキャリトレからのスカウトメールの気配を感じたが、確認するのはやめておいた。

たぶん、今はその時期じゃない。

そう、物事のタイミングを間違えるとろくなことにならないと、僕はうすうす気がつき始めていた。

 

「どうしてこの求人には興味を惹かれないわけ。」

「さあ、考え方次第かな。この求人を紹介することは誰にだってできる。ただ、現代における転職エージェントが求められていることは、それだけじゃないんだ。

希望条件に合った求人を紹介する。面接の練習や日程調整をする。年収の交渉だって行わなければならない。

要するに、僕らが想像する以上のサービスをすべて無料で行わなければならないんだ。わかるかい。」

 

「あなた、dodaに求人を紹介されたことある?」

「あるよ。もちろんすべての求人に目を通してないけど。他の大抵の転職エージェントの時と同じように。」

「興味のある求人はあった?」

「興味のあるものもあったし、興味のないものもあった。転職エージェントに紹介される求人に興味を持つためには、そうするためのそれなりの自己理解が必要なんだよ。もちろん僕は僕自身についてそれなりには理解できてると思うけど。」

「転職エージェントをはじめて使う人間が、求人を紹介されてすぐに意思決定をできると思う?」

「まず無理じゃないかな、そりゃ」と僕が言った。

「じゃあ、私たちわかりあえるわね?」とリクルートエージェントのコンサルタントが言った。

彼女が電話の向こうで椅子にゆったりと座り直し、脚を組んだような雰囲気が感じられた。

「それはどうかな」と僕は言った。

「君たちは何しろ求人数が業界最大級なことだけがアイデンティティだからね。」

リクルートエージェントというのはあなたが考えているよりも懐が深いかもしれないわよ。」

「君は本当に僕のスキルや経験、志向する企業を知っているの?」僕は聞いてみた。

「もちろんよ。職務経歴書で読んだわ。」

「いつ、どこで?」

「いつか、どこかでよ」と彼女は言った。

「そんなこと、ここでいちいちあなたに説明していたらとても時間が足らないわ、大事なのは今よ。そうでしょ?」

「でも何か証拠を見せてくれないかな。君が僕のことを少しでも理解しているって証拠を」

「例えば?」

「僕の経歴は?」

「3年目。新卒で日系大手企業。現在はそこでチームリーダーを勤めている。」と女は即座に答えた。

「今は2つのプロジェクトにアサインされている。B2BもB2Cも。それでいいかしら?」

 

「ねえ、あなたこのタイミングで市場に出てみれば、いろんな企業から声がかかると思うの。経歴だってそんなに悪くないわよ」

マイナビエージェントの女はそう言うと、サイドテーブルの上にあるレモネードのグラスを手に取り一口飲んだ。

「声がかかるかもしれないしあるいは声がかからないかもしれない。でもそんなことは正直どうだっていいんだ。

世界には飢えた子供達がたくさんいるし、何処かの国の戦争では、たくさんの兵士や民間人が今この瞬間にも死んでいっている。それにうちの猫も帰ってこない。

僕に企業から声がかからないことなんて、いったい誰が気にするんだい?」

「私よ。」女は言った。

「あなたの年収を上げたり、最適な企業を見つけるのが私たちの仕事なの。たとえ経歴が求人の求めるレベルに達していなかったとしても私がなんとかするわ。職務経歴書だって一緒に書いてあげる。」

「それが君にとってどんな意味を持つんだい。」僕は聞いた。

「それはあなたには関係ないことよ。」女はレモネードを飲み干すと、カバンから職務経歴書を取り出した。

 

「結局どの転職エージェントがおすすめなの?」笠原メイは静かに聞いた。

「完璧な転職エージェントなんて存在しないって言ったろ?君にもこの意味が理解できる日がくるよ。昔の僕のようにね。」

笠原メイが不満そうな顔を浮かべたのが目に取れた。

「やれやれ。」僕は頭を振った。

この記事を読んでみるといいかもしれないし、読む必要はないかもしれない。それは僕が決めることではないし、君が決めることでもない。かといってこの記事を読まないだけの確たる理由もないだろ?」

 

僕は30歳になり、冬は春への変化していたが、僕の生活に変化らしい変化はなかった。

笠原メイは結局転職エージェントを使い、転職をした。僕は何の感興もなく会社へ通い、月に1回転職エージェントと会い、時折「職務経歴書」を書き直し、日曜日が来ると早起きをして、早朝にビズリーチからのスカウトメールをチェックした。

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